帰化申請で、一番大変なのは必要書類の収集です。
帰化申請の大変さをランキング形式で紹介している女性行政書士のイラスト。
この記事は帰化希望者が実際に手続きをしてみて、苦労した点をご紹介します。
1998年から1999年の帰化許可者2000名に行われたアンケート調査結果と帰化申請の専門家としての肌感覚を元に記事を書きました。
帰化手続きで苦労したランキング。
1位:必要書類の収集と作成。
2位:何度も法務局に行く必要がある。
3位:許可がでるまでに時間が掛かりすぎる。
番外:特に苦労したことはなかった
番外:その他
帰化で大変だった部分を挙げると、このようになります。
帰化手続きに関するアンケート
このアンケートは、イミグレーションロー実務研究会の顧問兼、名古屋大学で教員をされておられる浅川晃広先生が論文執筆のために行った学術調査です。
20世紀末の帰化許可者2000名に対して、郵送で調査票を送付して行われました。
私の知る限り、帰化制度に関する唯一の調査です。
帰化で一番苦労したこと
書類集めが大変だった
239名
何回も法務局に行った
48名
許可になるまで時間が掛かった
17名
費用が多くかかった
9名
元の国籍を離脱すること
10名
特に苦労はしなかった
25名
その他
7名
無回答
4名
合計
359名
引用元:在日外国人と帰化制度
著者のプロフィールはこちら
http://www.gsid.nagoya-u.ac.jp/global/faculty/members/int/asakawa.html
帰化申請で一番大変なのは書類収集
日本国籍を取得する手続きで最も苦労するのが書類集めであることを説明する行政書士の画像。
帰化手続きで一番大変なのは書類集めですね。
359名中239名が大変だったと答えております。
2位を突き放してダントツの1位です。
行政書士の帰化申請業務の実務的にも、書類集めが終了すると7割がた仕事が終わると言われるほどに大変な作業です。
法務局に提出する書類の9割以上は、収集した書類になります。
特別永住者や自営業者、会社役員が申請者の場合は特に枚数が多くなります。
場合によっては200枚を超える場合もあります。
事務所で撮影した申請書の副本。
個人情報が分からないように、マスキング処理したものです。
書類収集の煩雑さは、細かく分けると3つに分類できます。
・本国書類の収集と翻訳
・他人様の戸籍やハンコを貰わないと駄目な書類
・種類に有効期限があり、取得のタイミングが難しい書類
本国書類の収集と翻訳
母国発行の証明書などを取得する方法を紹介する女性行政書士のイラスト。
帰化申請には、母国の書類が必要になります。
具体的には、申請者の出生証明書や家族関係の証明書など。
または両親の戸籍(母親が子供の頃まで遡る必要あり)や本国にいる兄弟の住民票のような書類も必要です。
これらの書類は原則的に、母国の役所でしか入手できない場合が大半です。
(韓国のように大使館や領事館で請求できる国もありますが)
母国の書類を入手するためには、下記の方法があります。
・申請者が帰国する。
・日本の家族や親族に、取ってきてもらう。
・母国に居る親族にお願いする。
一番現実的なのは、母国に居る親兄弟にお願いするパターンです。
母国に居る親族にお願いする場合ですが、上手く情報が伝わらないと・・・
必要な書類が揃っていなかったり、必要事項が書かれていない物だったりすることも珍しくありません。
実際にあった失敗です。
台湾の戸籍は、新しい情報を戸籍の用紙の上に貼り付ける方式になっています。
取り寄せた戸籍の写しには、上に貼られた部分しか有りませんでした。
法務局の担当官から、下の部分も用意するようにとリテイクを喰らった事例があります。
原本はEMSなどの海外郵便を使うので、到着にも時間が掛かります。
取り直しになると、本国の親族に再度、頭を下げてお願いすることになります。
お金も時間もかかり、非常に大変です。
本国書類が存在しない
時折、母国の役所に申請者の公的書類が全く存在しないケースがあります。
朝鮮籍の特別永住者の方に多いですね。
朝鮮籍の方も韓国の大使館に書類の取り寄せを依頼します。
大使館から、「この方の書類は存在しません」という結果が通知されます。
申請者にとっては、非常に頭の痛い問題です。
解決法はありますが、普通の手続きよりも煩雑になります。
この場合は行政書士などの専門家に依頼したほうが良いですね。
本国書類の請求先が分からない
在日韓国人などの日本で生まれ育った方が、帰化する場合にあるトラブルの一つです。
自分の正確な登録基準地が分からないことです。
これが分からないと、本国から書類を取り寄せる事ができません。
彼らは本国(韓国)に一度も行ったことがないケースも少なくありません。
一度も韓国に滞在した経験がなくても、大韓民国の役所のデータベースには、しっかりと登録されています。
大使館で取得するときに必要な情報が「登録基準地」と呼ばれる情報です。
日本で言うところの本籍地のような存在です。
申請者の基本証明書などは「登録基準地」の役所にあります。
この場合の対処法は、3つほどあります。
・申請者の両親や兄弟、親戚などに聞いて回る。
・家に保管されている登録基準地が書かれた書類を探す。
・法務省の個人情報保護係に情報開示請求する。
母国と日本の情報が違う。
母国の書類を取り寄せてみたら父親の名前のスペルが違う。
離婚したはずの相手が、戸籍などに残っている。
この様なケースもたまに有ります。
このままの資料を提出しても、法務局で受理してもらえません。
不一致を取り除く必要があります。
名前が違っている場合は、母国の裁判所などで改名手続きを行う必要があります。
この様なトラブルが発生すると、帰化申請の前に色々な手続きを済ませる必要が出てきます。
他人の戸籍や印鑑を貰わないと駄目な書類
帰化手続きの書類収集で大変なのは、外国の公的書類だけではありません。
勤務先のハンコが必要な書類(在勤及び給与証明書)も面倒な書類ですね。
帰化を検討する人の中には、通称名で外国籍であることを秘密にしている人も少なくありません。
この様な状況の中で、在職確認と給与の中身を証明する書類にハンコを貰わないといけません。
これが用意できなくて、帰化を断念する方も少なくありません。
元配偶者の戸籍や住民票が必要
帰化申請する場合、離婚した元夫や妻も親族の概要という書類に記載が必要です。
そして彼らの本人確認書類の提出も要求されます。
一般的には別れた妻や夫に、お願いして書類を準備してもらうことになります。
しかし・・・
離婚理由によっては、彼・彼女は協力してくれない可能性が高いです。
また離婚後に音信不通になって、連絡すら付けられない場合もあります。
こうなってしまうと、自力での帰化申請はお手上げになります。
有効期限があって、取得のタイミングが難しい書類
帰化手続きの書類には、使用期限があります。
法務局に提出するタイミング次第では、もう一度取り直す羽目になるものです。
例えば申請者の住民票や親族の戸籍謄本は、申請日の3か月前までのものが必要です。
また勤務先のハンコが必要な在勤及び給与証明書は、申請日の前月に物が必要です。
他にも金融機関の残高証明書も最新のものが求められます。
また銀行口座のコピーを提出する場合は、通帳に書かれた預金残高と一致することが大事です。
第2位:何度も法務局に行く必要がある。
帰化許可が出るまでに、申請者は何度も法務局に足を運ぶ必要があることを説明する行政書士の画像。
帰化申請で苦労することの第2位は、何度も法務局に出向く必要があることです。
帰化申請は法務局への事前相談から始まり、許可が出るまで最低でも4回から5回は出頭する必要があります。
シチュエーションとしては
・事前相談
・申請書類の提出と担当官のチェック。
・受理
・面接
・許可通知の受領
申請者の住所によって、管轄の法務局が決まっており、遠方にある役所まで出向く必要もあります。
法務局に家族全員(15歳未満の子供を除く)で出頭しなければならない場面もあります。
(申請書の受理と宣誓、面接は全員出席が必要)
法務局に行く場合は、ほぼ1日仕事になります。
1回あたり1時間から2時間くらい必要です。
予約時間が中途半端だと、丸一日つぶれることも珍しくありません。
あと大阪法務局や東大阪支局は、予約制を取っていないので、窓口にたどり着くまでの待ち時間が長いことで有名です。
法務局での用事を済ませるために、家族全員のスケジュールを調整しなければなりません。
これが4回も5回も繰り返されると考えると・・・
非常に大変です。
第3位:許可が出るまでに時間が掛かる。
帰化申請は手続きと審査に年単位の時間が掛かることを紹介する女性行政書士の画像。
帰化許可者が苦労した事で、3位にノミネートされたのが時間が掛かりすぎるです。
帰化を検討して、実際に許可が出るまでの期間はかるく2年程度は覚悟が必要です。
帰化申請のタイムテーブルは二つに分けることができます。
① 帰化の検討→書類の準備→法務局での受付
② 受理後→面接→現地調査→審査→決定
①で早くて3か月、時には数年が必要です。
②は特別永住者なら半年位でそれ以外の外国人なら1年前後は掛かります。
お世辞にもスピーディーな手続きとは言い難いですね。
この時間も専門家を活用することで、①の準備期間を大幅に短縮することが可能です。
日本国籍を付与することは、法務局の職員にとっても失敗が許されない性質の仕事です。
申請者本人や周囲に与える与える影響が大きいからです。
その為に法務省は帰化の審査を慎重に進めていると主張しています。
まとめ
帰化申請は、数ある手続きでも屈指の煩雑さを誇ります。
特に大変なのが、法務局の事前相談で指示された書類を集めることです。
本国の書類、第三者の協力が必要な書面、タイミングが大事な書類。
実務的にも帰化申請は書類集めがメインの仕事と言われるくらいです。
次に何度も法務局に足を運ぶために、家族全員のスケジュールを調整が必要な点です。
法務局に行くだけで1日仕事になります。
最後に許可が出るまでに最低でも1年は必要な長丁場です。
この様に帰化手続きは一筋縄では行かない煩雑で難しい代物です。